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第472号 1997(H9).04発行

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いちじく栽培における被覆肥料の利用

大阪府立農林技術センタ一 環境部
主任研究員 木村 良仁

はじめに

 大阪府東南部に位置する農林技術センタ一周辺地域では,古くは大正末期頃からいちじくの栽培が行われています。いちじくの果実は軟弱で輸送性・貯蔵性に欠けるにもかかわらず,完熟果で出荷できるという条件に合致することから,この地域で盛んに栽培されるようになったものと考えられます。

 この地域のいちじく栽培は,歴史が古いわりには,マイナ一作物に位置づけられていたことから,栽培管理とくに施肥の指導がされてきませんでした。一方,農家では科学的な裏付けがないにもかかわらず,糖度を高くするとか,樹勢を強くする効果があるとう理由で,慣行的にりん酸を多く含んだ有機質肥料を多用する傾向がみられました。

 しかし,みかんやぶどうなどの府下の主要果樹と比較しても,異常に多いりん酸が施用されています。りん酸を多く含んだ有機質肥料の多量施用が本当に糖度や樹勢に効果があるのでしょうか?

現状ではりん酸がたまるいっぽうです

 昭和63年に52のいちじくほ場を調査した時点では,すでに府下のみかん園やぶどう園,愛知県のみかん転換いちじく園の土壌に比べ,約2.5倍ものりん酸が土壌中にたまっていました。これは,農林水産省が指針とした果樹園での上限値(75mg/100g)より4倍も多い量でした。さらに,平成5年に再度調査したところ,5年間に1.6倍も増加していました。

 この結果は,平成5年に行った施肥に関する聞き取り調査とよく一致しました。すなわち,りん酸の施肥量は平均で42.5±25.4kg/10aでした。これは,府の指導基準と比較しても3倍近いりん酸を施肥していたことになります。

 つぎに,52園のほ場のりん酸を多く含んだ有機質肥料の施用量と結果枝基部の太さの関係を調べました。その結果,施肥量を多くしても結果枝基部を太くする効果はみられませんでした(図1)。

 りん酸は窒素や加里と並んで作物にとって必要な要素の1つで,大量に施肥される肥料です。しかし,りん酸を多く含んだ有機質肥料を毎年いちじくが必要とする以上に施用すると,どうしてもりん酸が土壌中に残っていきます。

 一般に土壌中に大量のりん酸が残っていても作物の生育に支障がないことから,どうしても施用が多くなりがちです。しかし,作物に利用されずに土に残ったりん酸の一部は,水に溶け出して,地下水や河川・海を汚す恐れもあり,環境保全の面からも好ましいとはいえません。さらに,高価な肥料がむだになります。

●NKロング100タイプを利用する

 いちじくは,結果枝の伸長にともなって下位節から上位節へ順次着果して,1本の結果枝に発育段階の異なった果実が着生します。収穫期は7月下旬からの早期出荷に始まり,10月中旬まで続きます。このように長期にわたって果実を肥大させ,樹勢を維持するためには,この間の肥効を保ち続けることが重要です。

 いちじくの慣行的な栽培法は,元肥をうねの表面に施用した後,その上に敷きわらと両肩に黒のビニールでマルチをします。したがって,この方法では追肥が困難となるため,施肥は元肥が重点となっています(写真1,2)。

 以上のことから,土壌中のりん酸の減少と効率的な施肥を目指してNKロング100タイプという被覆肥料の導入を検討しました。この肥料は地温の低い時期には肥料分の溶出が抑えられ,地温の上昇とともに溶出量が増えることと,りん酸を含まないという特徴をもっています。このことをいちじくに当てはめてみますと,元肥として施用した時期(2月中・下旬)から5月上・中旬の養分転換期(枝の伸長のはじまり)までは溶出が抑えられ,それ以後の最も窒素を必要とする時期になると,いちじくにとって必要な肥料分が多く溶出されてきます。

●いちじくの生育に合っている

 果実の収量性がよいか否かは,ほとんど結果枝で決まります。いちじくの栽培に必要な結果枝長・基部径・節数を確保するためには,5月中旬から7月中旬までのいちじくの生育が重要です。慣行の施肥法と比べても,結果枝長にNKロング100タイプの方が優っています(図2)。

 また,結果枝基部径・節数も同等かやゝ優っていました(図3,4)。

 すなわち,この肥料がいちじくの生育特性に合った窒素の肥効があると考えられます。収穫果数・一果重もほぼ同等の結果であった(表1)ことから,この肥料は窒素を追肥したのと同じ効果があり,いちじくの結果習性に見合った肥料と言えます。

●りん酸の集積が緩和された

 3か年にわたりNKロング100タイプを利用した結果,土壌中のりん酸が1年間に40~50mg/100gずつ減っていきましたが,慣行の施肥法では,より一層りん酸が溜ってきています(図5)。しかし,糖度は慣行の施肥法と変わりませんでした(表1)。

 このことから,現地の土壌の状態から考えて,NKロング100タイプを使用すると,すでにたまっているりん酸を利用することによって,今後8~10年間はりん酸を施肥しなくても,樹勢を維持しつつ,糖度の高いいちじくが栽培できるものと考えることができます。

●土づくり肥料を同時に使う

 平成5年(低温・長雨),平成6年(高温・乾燥)と平成7年の3か年にわたって,多量にりん酸が土壌にたまっているいちじく園でのNKロング100タイプを利用した現地実証試験結果を紹介してきましたが,いずれの気象条件においても,慣行の施肥法と変わらない生育・収量及び品質が得られました。このことから,被覆肥料はいちじくの栽培に適した肥料であるということができます。

 いちじくは中性または微アルカリ性を好む果樹と言われています。NKロング100タイプのような被覆肥料には石灰や苦土が含まれていないことから,土壌のpHが低下していきます(表2)。したがって,このような被覆肥料を利用する時には,苦土石灰との併用を勧めます。

 

 

生命にとって塩とは何か
-生命と塩との関係史-4

京都大学名誉教授
近畿大学農学部教授
高橋 英一

4 動物にとって塩とは(つづき)

塩分が不足するとどうなるか

 テイラーという人は塩分を含まない食事をして,どのような症状が現れるか自ら実験した。それによると先ず発汗が盛んになり,食欲がなくなった。五日目にはいちじるしい体のだるさを感じ,八日目には筋肉が痛んだりこわばったりし,ついで眠れなくなり,また筋肉のけいれんに悩まされた。さらに異常がひどくなるきざしがみえたので,実験を中止せざるを得なかったという。

 動物ではいろいろ実験が行われているが,ウサギで行われた観察の結果はつぎのようである。すなわち塩化ナトリウムを含まない飼料を長期間与え続けると,血液中の塩分の量はかなり減少するが,腎臓はわずかの塩分も体外に逃さないようになる。そこで利尿剤を与えてこの腎臓の働きをとめると,ふたたび塩分は体外に排出されるようになる。

 こうして多量の塩分が体から失われると,刺激に非常に興奮しやすくなり,ついで衰弱と体のふるえがはじまり,最後に後肢がまひして死亡する。しかし生理的食塩水(0.9パーセントの塩化ナトリウム溶液)を注射すれば,極端にひどくなっていないかぎり正常の状態に回復した。

 このようにナトリウム欠乏症状は脱力,しびれ,四肢麻痺など,代謝障害よりもまず神経-筋肉の機能障害となって現れる。これは神経組織を発達させ,これによって全身の機能を統御する方向に進化していった動物の,植物とは異なる体制機構にナトリウムが重要な役割を演じていることを示している。

 日常においてみられるナトリウム欠乏は過度の発汗,嘔吐,下痢によっておこる急性のものであり,低血圧症,脱水症やアシドーシス(血液の酸性方向への変動)をひきおこすことが知られている。昔,炎天下で重労働をした線路工夫などは塩をいれた茶を絶えずとっていた。現在のスポーツ飲料にもナトリウム塩が加えられている。

塩分をとりすぎるとどうなるか

 下等な動物の静脈に比較的濃い食塩水を注射すると簡単に発熱をおこす。子供も過剰の塩分を与えられると「塩熱」といわれる熱をだすことがある。むかし懲兵検査の直前に醤油を飲んで熱を出し,兵役をのがれようとしたことがあったそうであるが,これらは一般的なものではない。普通問題になるのは,食塩のとりすぎによる高血圧症である。

 食塩の多量摂取が続くと,ナトリウム排泄作用が追いつかなくなり,体内の食塩貯蓄量がふえ,その結果体液量とともに循環血液量も心拍数も増加し,血圧は上昇する。高血圧の95パーセントを占めるといわれる本態性高血圧症の人は,遺伝的にナトリウムの排泄能がわるい傾向がある。血圧が上昇すると心臓に負担がかかり,血管にそれだけ強い力が加わる。その結果血管が破れたり,れん縮を起こして血流が悪くなったり,長期間血圧の高い状態が続くと動脈硬化になったりする。

塩分の摂取と調節のしくみ

 食塩の摂取量は日本人の場合,一日10~20グラム,平均15グラム)ナトリウムにして6グラム)で調味料からとることが多い。これに対してカリウムの摂取量は2~4グラムで主として野菜からとっている。摂取された塩分は汗,大便,尿を通して排泄されるが,摂取量が変化すると,正常な腎臓では速やかに尿中への排泄が調節される。

 表5は新鮮な下肥の成分組成の一例であるが,日本人の下肥の食塩の含有率の高いことが目立つ。これは米を主食とする関係から,肉食のヨーロッパ人にくらべて調味料(味噌,醤油,塩干物など)を通じての食塩の摂取量が多いためで,それが高血圧の一因となっているといわれる。日本人とヨーロッパ人の食生活のちがいは糞尿中に排泄される窒素,リン酸,カリにも現れている。なおこのデータは戦前のものであるので,食生活が変化した現在はもっとヨーロッパに近くなっていると思われる。

 塩分排泄の調節は腎臓で行われるが,そのあらましはつぎのようである。腎臓に送られた血液は,毛細血管を通して血球,タンパク質以外の成分,すなわち塩分,アミノ酸,糖および水分がろ過される。これが原尿で一日に両側の腎臓で150~200リットルも生成されるが,そのまま排泄されるのではなく,必要な物質は水分とともに再吸収され,不必要なものだけが約1.5リットルの尿として排泄される。原尿中のナトリウムの再吸収は,アルドステロンというホルモンの働きで行われるが,腎臓はこのアルドステロンの分泌を制御して,尿によるナトリウムの排泄を調節している。

 南米の奥地に住むヤノマモ族はバナナを主食にし,野菜,野鳥,魚,昆虫などを食べて生活しているが,一日のナトリウム摂取量は平均0.04グラム(食塩にして0.1グラム)といわれる。これは日本人の百分のーであるが,逆にカリウムは8グラムと日本人の2~4倍の摂取量である。これは彼らの腎臓のアルドステロンの分泌レベルが非常に高く,ナトリウムの再吸収力が強いことによっている。彼らの20歳台の血圧は最高が100前後,最低が60程度に維持されており,歳をとっても増加する傾向はみられないといわれている。これなどは特殊な例であり,また調節の限界に近いものと思われるが,それにしても恒常性維持能力の高さには驚くべきものがある。

 動物は上陸するまでは一定した海水環境の中で生活することができた。このような環境下で長い間暮らしてきた動物は,海を離れても海水との関係を完全にたちきることをせず,「内なる海」を抱いて陸に上がってきた。しかし陸上の食物から塩分をとりこんで,一定濃度の内なる海を維持するためにはさまざまな工夫が必要であり,その複雑なしくみはわれわれの体の中にみることができる。あとで述べるように,ヨーロッパの「肉食」,日本やアジアの「米(穀)食」という食事形態の違いは,塩分をとるために独自の食文化を育てていった。

 

 

遮光下におけるキャベツセル成型苗の
根の生理的変化と定植後の発根力との関係

石川県農業総合研究センター
砂丘地農業試験場
主任技師 福岡 信之

はじめに

 キャベツセル成型苗の定植後の発根力は,定植時の根の呼吸活性で評価でき,育苗期の遮光,摘葉,短日等の同化産物の低減を招く処理は,根の呼吸活性を低下させ発根を抑える1)。根の呼吸は,組織の維持・生長や養水分の吸収に必要なエネルギーを得るために,根中あるいは地上部から供給される同化産物の分解により行われるので5),発根力に関与する根の呼吸活性の高低は,植物体内における炭水化物含有量と密接に関係しているものと考えられる。

 植物体全体の炭素収支に直接的に影響を及ぼす遮光処理は,光合成能の減退6)や糖含量の低下8)を誘起するので,遮光下で苗の生理的変化と根の呼吸活性との関係を検討することは,発根の基礎的な生理現象を解明し,活着技術の向上を図る上で意義がある。これまでに,苗の発根力と炭水化物含量との関係をみた報告は多いが3,8,18)。光合成能,炭水化物含量ならびに糖の分解に関与する酵素活性と発根との関係を総括的にみた報告は少ない。

 本研究では,遮光率を95%とし,同化産物の生成量を著しく抑えた場合の光合成能,炭水化物含量ならびに糖の分解にかかわる主要な酵素の一つとしてインベルターゼ活性を調査し,これら内的要因と根の呼吸活性との関係を検討することによって,発根にかかわる生理現象の解明を試みた。さらに,遮光期間中の糖添加が根の呼吸活性や定植後の発根に対する影響も調査した。

材料および方法

 発根にかかわる根の生理現象を究明するため,3種類の実験を農林水産省野菜・茶業試験場ガラス室で行った。

実験1 遮光下における根の呼吸活性と光合成能ならびに炭水化物含量との関係

 材料はキャベツ“松波”を用いた。1994年11月9日に,128穴セルトレイに1穴3粒になるように播種し,播種後7日目に1穴1株に間引きした。培養土は,市販の園芸培養土(ヤンマ一野菜養土)を用い,播種後10日目より園試処方標準培養液の1/5濃度液を適宜灌水した。その他の管理は,慣行法にならって行った。

 処理区として,12月20日より7日間ダイオネット(黒,#1010)を2枚被覆する遮光区(遮光率95%)と自然状態の対照区の2区を設けた。調査は,処理期間中の茎葉・根重,光合成速度,根の呼吸速度について行い,光合成速度の測定用材料は本葉第2葉の葉身中央部を根の呼吸速度の測定用材料は主根から生じた側根を用い,それぞれ酸素電極法7)で測定した。いずれも反応温度は25℃とし,光合成速度は1,600mol/㎡/sec下で測定した。

 また,光合成ならびに呼吸速度と同様な測定用材料を用いて,葉・根部のデンプン,スクロース,グルコース,フラクトース含量を測定した。糖含量は,葉部では3gを,根部では1gを採取し,80%エタノールで糖液を抽出後,高速液体クロマトグラフィーで測定した。デンプンは,上記で得られた残さをジメチルスルホキシド(DMSO)で加水分解し,遠心分離後,上澄液をグルコアミラーゼで3時間反応させ,Somogyi-Nelson法で比色定量した。

実験2 遮光下における根の呼吸活性とインベルターゼ活性との関係

 材料はキャベツ“松波”を用いた。1994年11月21日に,遮光区と自然状態の対照区の2区を設けて128穴セルトレイに播種した。遮光処理は実験1と同様にダイオネットを被覆することによって行い,被覆期間は1月12日より12日間とした。

 調査は,処理期間中の光合成ならびに根の呼吸速度,インベルターゼ活性について行い,光合成と根の呼吸速度の測定手順は実験1と同様とした。インベルターゼ活性を測定するため新鮮根0.5gに40倍量の0.2Mクエン酸-リン酸緩衡液(pH4.96)を加え,ホモジナイズ後,6000gで15分間遠心分離し粗酵素液を調整した。上澄液1mlを採取し,0.05Mスクロースを1ml加えて30℃で1時間反応,5分間100℃で反応を停止させた後,生成された還元糖をSomogyi-Nelson法で比色定量した。対照区としてスクロースの代わりに脱塩水1ml加えたものを用いた。

実験3 遮光下における糖添加が根の呼吸活性ならびに発根に及ぼす影響

 材料はキャベツ“金春”を用いた。1994年9月26日に,128穴セルトレイに播種し,11月7日より10日間実験1と同様に遮光を行った。

 処理区として,遮光期間中スクロースの0.2,0.4%水溶液を毎日1穴当り0.4ml灌注する2区と対照区の計3区を設けた。対照区は,スクロースの代わりに水道水を毎日1穴当り0.4ml灌注した。処理終了後,直ちに5号素焼き鉢に定植した。調査は,茎葉・根重,根の呼吸速度ならびに苗の引抜き抵抗値について行った1)。また,定植後4日目と8日目にルートボックス(3×30×40cm)を用いて根群の分布状況を観察した。

結果

実験1 遮光下における根の呼吸活性と光合成能ならびに炭水化物含量との関係

 植物体の生長に対する遮光処理の影響をみると,対照区では茎葉・根重ともに処理期間中直線的に増大したが,遮光区は重量増加がみられず,生育抑制が認められた(第1図A,B)。光合成能に対する遮光処理の影響は,特に,処理5日目に認められ,遮光区の光合成速度は80mg/D. W. g/hrと対照区より20%程度小さかった(第1図C)。根の呼吸速度は,遮光処理によって低下し,対照区に比べて処理2日目で31%,5日目で26%それぞれ小さかった(第1図D)。

 葉部のデンプン含量は,対照区で処理期間中4~6mg/F. W. gと高く推移し,遮光区では処理2日目以降2mg/F. W. g前後と対照区の1/2程度に低下した(第2図)。

 また,葉部の糖含量をみると,スクロース,グルコース,フラクトースいずれも処理2日目では遮光区で対照区を上回ったが,5日目以降遮光区の低下が甚だしく,7日目の全糖含量は対照区の約70%減となった。根部の糖組成の主体はスクロースとグルコースで,いずれも葉部と同様に遮光区で含有量が少なく,7日目の全糖含量は対照区のおよそ80%減となった。根のデンプン含量は,遮光区と対照区との間で大差なかった。

実験2 遮光下における根の呼吸活性とインベルターゼ活性との関係

 光合成速度をみると,対照区,遮光区ともに処理期間中低下したが,低下速度は後者が前者に比べて大きく,処理6日目の遮光区の測定値は対照区の約30%減となった(第3図A)根の呼吸速度も光合成速度と同様で,対照区では処理2日目以降3.5~4.5mg/D. W. g/hrと高く推移し,遮光区では2~3mg/D. W. g/hrと低かった(第3図B)。

 インベルターゼ活性は,処理2日間は遮光区で対照区より高く,6日目では対照区が遮光区を上回った(第3図C)。

実験3 遮光下における糖添加が根の呼吸活性ならびに発根に及ぼす影響

 スクロースの土壌添加が植物体の生長に対する影響は,茎葉部では定植後に,根部では処理期間中より認められ,対照区に比べてスクロース添加区で生育が旺盛となった(第4図A,B)。特に,処理の効果は茎葉部より根部で大きく,定植後10日目の根重は対照区の1.3倍となった。根の呼吸速度は,対照区では処理開始直後より急速に低下し,2日目で処理開始時の約25%減,10日目には約50%減の1.8mg/D. W.g/hrとなった(第4図C)。

 一方,スクロース添加区では,処理6日間は3.6~4.0mg/D. W.g/hrと処理開始時とほぼ同等で,その後,急速に低下したものの,10日目でも開始時の約40%減にとどまった。スクロース添加が苗の引抜き抵抗値に対する影響は定植後6日目に認められ,添加区の抵抗値は190gf前後と対照区の130gfに比べて高かったが,10日目では引抜き抵抗値の差は明らかでなかった(第4図D)。

 根群の分布状況を観察した結果,定植後4日目の根群の最高深度は対照区で8cm前後と浅かったが,0.4%添加区では15cmに達した。その傾向は処理8日目でも同様で,スクロース添加区で根群の発達状況が良かった(第5図)。

考察

 セル成型苗の発根力は,基本的には根の生理的機能に起因するものであり,その機能の一つとして根の呼吸活性を挙げることができる13)。前報で1),育苗期の遮光,摘葉,短日等の同化産物の低減を招く処理は,根の呼吸活性を低下させ発根を抑えることを示した。

 本実験では,遮光率を95%とし,同化産物の生成量を顕著に抑えた場合の生体内における炭水化物含有量と根の呼吸活性との関係を検討した。その結果,95%の遮光によって光合成能や茎葉・根部におけるデンプン,糖含量が低下し,根の呼吸活性が顕著に抑えられることが認められた。炭水化物含有率の高い苗で定植後の発根力が旺盛なことは,ナス8),イネ4,17),タバコ9)などいくつかの高等植物において報告がある。

 一方,ナス苗の遮光処理は,茎中のデンプン,糖,不溶性窒素ならびに全窒素含量の低下を招き8),低温・暗黒貯蔵したキャベツセル成型苗の葉部の糖含量は貯蔵開始直後に一時的に高まるものの,その後急速に減少する2)。また,地上部から地下部への同化産物の分配は短日処理によって抑えられ15),低温・暗黒貯蔵したイチゴ苗の根の糖含量は貯蔵開始直後より急速に低下する18)。

 発根に関与する根の呼吸は,地上部から供給される同化産物を分解し,発根に必要なエネルギーを獲得するための生理的な手段として評価できるので5),遮光下で根の呼吸活性が低下し発根が抑えられたのは,光合成能の減退や根への同化産物の転流の低下に伴う根中の炭水化物の量的不足によるものと考えられる。さらに,本実験においても,遮光直後に葉部の糖含量が一時的に高まることが認められたが,これは根を含めた植物体の維持に必要な炭素源の供給低下の補償作用として,葉部の蓄積デンプンの糖への転化が促進された結果と考える。

 発根に要するエネルギーの獲得手段としての呼吸には,呼吸に関与する代謝系への基質の安定的な供給とともに,呼吸基質を分解し代謝過程を円滑にする多様な酵素の介在が不可欠である。本実験において,キャベツセル成型苗の根中の糖の蓄積形態の主体がスクロースであったことは(第2図)。スクロースを分解するインベルターゼ10)が呼吸に関与する代謝系の鍵酵素となっている可能性が推察される。

 本実験では,遮光区と対照区で根の呼吸活性とインベルターゼ活性を調査したが,呼吸活性は遮光処理による低下の度合いが甚だしく,また,インベルターゼ活性は遮光直後は若干高く,遮光開始6日目には対照区より低くなることが認められた。暗黒処理したインゲンの茎部では,細胞の伸長に必要なエネルギー源を蓄積したスクロースの分解により補完するため,インベルターゼ活性が一時的に急増することが知られている11)

 上記したように,遮光下では根の呼吸活性は葉部から根部へ供給される同化産物の絶対量の不足により低下するが,遮光開始初期では葉部からの同化産物の供給不足を根中に蓄積したスクロースの分解によって補完する作用が働き,そのためインベルターゼ活性が高く保持されたものと考えられる,根中における呼吸活性の低下がインベルターゼ活性の低下に先行したことは,遮光による呼吸活性の低下が酵素活性の低下に直接的に起因するのではなく,呼吸基質の量的不足が律速要因として呼吸系全体に作用したことを示唆している。

 本実験では,遮光期間中にスクロース溶液を土壌灌注することによって,根の呼吸活性の低下が抑えられ,定植後の発根力が旺盛になることが認められた。通常,葉面に施与されたスクロースは生体内に急速に取り込まれて代謝に利用されることが知られている14,16)。また,スクロース溶液の葉面散布は,根の呼吸活性の低下を抑えたり18),発根力を旺盛にすることが報告されている12)

 したがって,本実験で施与されたスクロースは,根部より速やかに植物体内に取り込まれたことは明らかで,施与されたスクロースが呼吸基質として呼吸に利用された結果,根の発根に要するエネルギーの獲得が可能となり,発根力が高まったものと考える。

 ところで,苗の発根力の低下は,いわゆる〝老化苗〟でも同様に認められる現象で14),長期育苗したホウレンソウセル成型苗の発根力の低下は根の呼吸活性の低下に起因する13)。一方,著者らはキャベツセル成型苗において苗齢の進行に伴う体内成分の変動を調査した結果,長期間の育苗によって根の呼吸活性が低下した苗では,根中のインベルターゼ活性が低下し,スクロース含量が急速に高まることが認められた(福岡ら,未発表)。

 このことは,発根力の指標となる根の呼吸活性の低下の原因には,根への呼吸基質の供給量の不足以外に,酵素活性等で評価される根の生理的な機能の減退に伴う呼吸基質の利用効率の低下があることを示している。巽・景山14)は,トマト苗の苗齢の進行に伴う発根力の低下の原因について,苗体内での栄養的な飢餓による場合と,細胞膜構成物質の比率の増大など組織的な変化に伴う生理代謝の活性低下による場合があることを指摘している。

 以上より,遮光下でキャベツセル成型苗の定植後の発根力が低下した原因について,以下のように推論することができる。

 即ち,遮光下では光合成能や根のシンク活性が低下し,根部に転流し蓄積する同化産物の絶対量が不足する。根部に内在する基質が量的に不足すると,インベルターゼ等の呼吸系に関与する酵素の生合成や活性化が阻害される。根部への基質の供給量の不足や,これに伴う呼吸系に関与する酵素活性の低下は,根の呼吸を抑止する。根の呼吸活性が低下すると,呼吸系で獲得されたエネルギーの大半が生体の維持に使われ,発根への寄与率が低下し,定植後の発根が抑えられる。発根が抑えられた苗では,定植後の活着が遅れ,生育が遅延するものと考えられる。

 本実験では,呼吸基質の根部への供給量が律速要因として発根力に関与していることを明らかにしたが,このことは呼吸基質の人為的な補給が呼吸活性を高め発根を旺盛にしたことからも明らかである。

引用文献

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